研究概要 |
本研究では検出器中の対生成反応に着目し、従来のように各イベントに対してエネルギースペクトルを測定することに加え、対生成による生じたe-,e+の飛跡も捕らえることで入射γ線エネルギーと飛来方向を推定し、より正確に爆薬の有無や位置を探索する検出器を開発することにある。従来は光子の飛来方向検出器としてコンプトン散乱を利用してきていた。しかしながら従来のコンプトン方式では原理的に1つの電子を検出対象としているため、多重散乱や他の偶発イベントに対し、誤って計測を行ってしまい、従来では探知精度に問題があった。本方式の最大の特徴である対生成イベントでは1つのイベントに対して2個の荷電粒子を観測対象としているのでこれらの影響を非常に受けにくい。そのため、様々なバックグラウンドが予想される屋外での地雷探査に必要不可欠な要素を持っている。本検出器を開発する意義は地雷の速やかな撤去にある。従来の方式とは異なり、様々な元素がある屋外でも真のイベントのみを測定できるので、土壌中の爆薬を速やかに正確に発見することができると考えている。 平成20年度の研究では小型のドリフトチェンバーを開発し、プリアンプを介してパルスを観測することには成功したが、印可電圧上昇に伴うノイズパルスの影響が大きく、その原因はドリフトガスの不純物混入にあると考えている。その一方で、シンチレータの形状に工夫を凝らすことで土壌中の他の元素から生じるγ線を弁別する技術も考案し、加速器を用いた実証実験を準備している段階にある。これらの実験と並行して、γ線や電子・陽電子の散乱をシミュレーションできるEGS4を用いて検出器の入射角度依存性を調べる研究を行った。また、PHITSを用いて土壌中での中性子の散乱の影響を調査し、遮へい材や土壌水分を考慮した熱中性子の分布についての検証を行った。
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