多次元検出器および独自開発中のスパイラルスリットによる迅速応力測定法の構築としてデータ解析システムはほぼ完成した。これにより従来法では非常に困難とされてきた粗大粒や集合組織を有する鉄鋼材中の応力分布を明らかにすることが可能となる。今後、本測定結果の信頼性を確認するために、本測定で使用した溶接試験片もしくは、き裂を導入した試験片を従来のひずみスキャンニング法により測定し、比較する予定である。 また、高エネルギー放射光X線の強い透過力を活かして、SCCにより発生する鉄鋼材内部中のき裂先端部の詳細かつ正確な応力分布を測定するために従来のひずみスキャンニング法とイメージングを融合した測定手法を開発した。本年度は、本手法により4mm程度の材料中のき裂先端部を20μm程度の空間分解能でき裂の形状およびひずみ分布測定に成功した。今後、複雑に割れているSCCによるき裂先端部の測定に応用していく。 一方、上記の手法により実測した溶接部の応力分布から、TIG溶接部表面近傍ともっとも深い領域には強い引張応力が、母材との境界部には若干の圧縮応力が発生していることを明らかにした。ただし、境界部に関しては部分的には引張応力も見られることから詳細を詰める必要があるといえる。また疲労き裂先端部におけるひずみ分布に関してはほぽ理論どおりであるが、塑性変形している領域に関しては実測の方が理論よりも3倍程度広く求められた。今後、この2つの違いに関して考察していくとともに、SCCの機構解明を行うべく、この2年間で確立した手法をベースにさらに検討を進めていく。
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