特定の系統に属する一群の硫黄酸化細菌は、細胞内に硝酸イオンを蓄積する能力を持つ。これらの細菌は炭素・窒素・硫黄・リンといった、生体を構成する主要な元素の循環において重要な役割を担っていると考えられている。しかしながら、未だ純粋培養が得られていないことにより、その機能を詳細に解析することは困難な状況にある。硝酸イオン蓄積硫黄酸化細菌のうち、唯一淡水に生息することが知られている淡水性Thioplocaを対象として、遺伝子解析からの機能推定を行った。試料として北海道・オコタンペ湖、滋賀県・琵琶湖、ロシア・バイカル湖、およびドイツ・コンスタンツ湖の4つの淡水湖と、汽水湖である青森県・小川原湖から採取したThioplocaを解析に用いた。各湖沼の試料からDNAを抽出し、硫黄酸化に関わる遺伝子をPCR増幅し、クローニング解析を行った。それぞれのクローンライブラリから得られた配列のほとんどは、互いにごく近縁なものであった。さらにこれらの配列は、海洋堆積物中に生息する硝酸イオン蓄積硫黄酸化細菌に由来する配列とも近縁であり、Thioplocaに由来するものであることが系統解析の結果から強く示唆された。これにより、淡水性Thioplocaが硫黄酸化能を持つことについて、初めての遺伝学的裏づけが得られた。また、複数知られている硫黄酸化経路のうちどの経路が用いられているかも推定することができた。硫黄酸化に関わる塩基配列が得られたことにより、発現量の解析などへの道が開けた。今後、実際の生息環境における活性の評価に応用することが期待できる。
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