本研究では、1)知見の乏しい、我が国の淡水産動物プランクトンの遺伝的多様性を評価すると同時に、2)動物プランクトンの移動分散能力(飛翔能力)はタクサ間の生活史特性の違いに応じて変化する、という従来の「漠然とした理解」を検証すること、を目的とした。得られた結果は、1)については、Sinodiaptomus valkanoviというヒゲナガケンミジンコのニュージーランドへの侵入を分子生態学的に確認し、また形態的に識別できない隠蔽種の存在を日本の淡水産動物プランクトンにおいて初めて発見するなどの成果を得た。2)については、ミトコンドリアDNAのCOI領域の塩基配列データからは、移動分散(=飛翔能力)のタクサ間差が「漠然とした理解(すなわち飛翔能力がミジンコ類>ヒゲナガケンミジンコ類>ケンミジンコ類となる)」と一致する、という当初の仮説を支持する結果は得られなかった。その理由としては様々な要因が挙げられるが、分子進化速度がミジンコ類<ヒゲナガケンミジンコ類=ケンミジンコ類、とタクサ問で異なり、それが解析のノイズとなった可能性が考えられた。
|