研究概要 |
高度な社会性を獲得したシロアリ類には,巣の防衛を担うソルジャーが存在する。ソルジャーは,特殊な形態により自らは摂食できず,巣内の割合は一定に保たれる必要がある。ソルジャー分化の調節に関しては,幼若ホルモン(JH)が重要な役割を担うことが知られるが,初期(王と女王による創設直後)巣では,ソルジャーが長期間1個体しか存在しないことが知られ,親個体による分化調節の存在が示唆される。本研究では,親個体による兵隊の認識と分化調節の機構を明らかにすることを目的とし,系統的に重要な3種を材料として初期コロニーを作製して解析を行った。本年度は,ヤマトシロアリとネバダオオシロアリの初期コロニーを作製し,ソルジャーが出現した後に,コロニー状態を変化させて,JHによるソルジャー分化誘導に如何なる影響が与えられるかを調べた。その結果,生殖虫の有無により,JHによるソルジャー誘導率には大きな違いが見られ,生殖虫の存在下では有意に分化率が低下することが明らかとなった。また,幼虫のJH結合タンパク質(ヘクサメリン)遺伝子の発現量は,巣内のソルジャーを取り除いた後で大きく低下することも示された。なお11月に,西表島の琉球大学熱帯生物圏研究センターへ赴き,残りの研究対象種であるタカサゴシロアリを採集し,JHによるソルジャー誘導の実験系を立ち上げた。結果の一部は論文にまとめると同時に,第67回日本昆虫学会および第55回日本生態学会にて発表した。
|