研究概要 |
野生生物の集団間の遺伝的分化における選択圧の寄与を明らかにすることを目的とし,適応的遺伝子に関わるゲノム領域と,関わらない中立なゲノム領域の変異を比較する。チベット高原において標高という環境勾配に着目し,幅広い標高に分布するPotentilla fruticosa L.(バラ科キジムシロ属)を対象とした。適応的遺伝子に関わるゲノム領域を調べるマーカーの開発には,Potentillaに近縁なイチゴの発現遺伝子の塩基配列(EST)情報を利用した。データベースより情報を取得し,シロイヌナズナの塩基配列とアライメントし,相同性の高い領域にプライマーを作成した。作成した192対のプライマーのうち約80%(154)で増幅が可能であった。そのうち57領域の塩基配列を決定し、各集団の遺伝変異を中立部位であるとされている葉緑体の遺伝変異と比較した。その結果、Gossypium hirsutum gaiacol peroxidase (pod 1)領域のものは中立部位で見られたパターンと異なることが明らかとなった。本領域は17のSNPが存在したが、中立部位で最も高い遺伝的多様性を示した高標高域の集団では1つの遺伝子型に固定していた。このことから、高標高域の集団では、この領域あるいは近傍の領域になんらかの淘汰圧が働いた可能性が考えられた。
|