空間的に不均質で階層構造をもつ環境で生物が食物をどのように探索するのかは、個体の適応度や個体群動態を理解するうえで重要である。空間スケールによって異なる食物探索様式をもたらす意思決定則について、またその意思決定則が個体の適応度に及ぼす影響については、これまで明らかにされていない。そこで本研究では、主に水田で採食を行うチュウサギに注目し、平成19年度に採食地の質について情報の不完全な個体が食物探索時にとる意思決定則を明らかにした。平成20年度には、この意思決定則がどのような空間分布を生み出すのか、特に餌生物の空間分布と一致した分布に帰結するかどうかについて明らかにすることを目的とした。 茨城県霞ヶ浦沿岸地域の水田地帯で、チュウサギが滞在する4月から7月にかけて計4回、対象とした48水田でチュウサギの個体数および餌となる水生生物(主にドジョウとオタマジャクシ)の生物量調査を行った。解析には一般化線形モデル及び一般化線形混合モデルを用いた。二つの空間スケールでチュウサギ個体数と餌生物量の関係を解析したところ、地区スケールでは時期によらずチュウサギ個体数とドジョウ生物量の間に正の相関が確認された。一方で圃場スケールでは、6月後半のみチュウサギ個体数とオタマジャクシ生物量の間に正の相関が確認された。これらの結果から、直近の採食経験に基づいてその後の食物探索パターンを変化させるという個体の意思決定が、圃場スケールで生物量の多いオタマジャクシの分布に一致した空間分布に帰結していること、また地区スケールではさらに異なる空間分布の意思決定則が存在している可能性が示された。
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