研究概要 |
本研究の目的は「アミノ酸化合物の窒素同位体比」による,水域生物の食物網解析手法の確立である。アミノ酸化合物の窒素同位体比の生態学的利用に関しては,既に一次生産者(栄養段階(TL):1)と一次消費者(TL:2)の生物に関しては,McClelland & Montoya(2002)が培養プランクトンで,Chikaraishi, et. al.(2007)が天然環境中の底生性生物が,(A)これらの水棲生物種問でアミノ酸種間の安定同位体比分布のパターンが類似しており,(B)特定のアミノ酸種において一次消費者でのみ高い値を示す(捕食による15N濃縮がある),このことから(C)アミノ酸の窒素同位体比から「栄養段階の算出」が行えるであろうことを示している。 本年度は予め栄養段階の明らかな培養/天然生物(植物プランクトン・動物プランクトン・魚類)についてアミノ酸化合物レベル同位体比を測定し,TL3以降の高次消費者(魚類)においても(A)(B)が成立し,その濃縮率もほぼ一定であることをあきらかと示した。またホルムアルデヒドやグルタールアルデヒドによる標本保存が,アミノ酸化合物レベル同位体比への影響について実験的を行い,固定の影響は分析誤差の範囲内であり,化学固定された標本試料への応用は可能であるとの結果を得た。本手法により,数年から数十年前の生物試料の栄養段階が復元できれば,既に存在しない過去の湖沼生態系の構造解析など,これまでにない研究分野への可能性を広げるものと期待される。
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