光合成膜であるチラコイド膜の脂質組成は、酸素発生型光合成をする生物で非常によく保存されており、多量のガラクト脂質を含むことが知られている。しかし、何故チラコイド膜に多量のガラクト脂質が存在するのか、現在のところ明らかとなっていない。我々は、シアノバクテリアには植物とは異なるタイプのDGDG合成遺伝子が存在すると予想し、糖転移酵素の活性モチーフ検索を主な手法として、単細胞性シアノバクテリアであるSynechocystis sp. PCC6803よりDGDG合成酵素遺伝子dgdAの単離に成功している。dgdA遺伝子の破壊株では、シアノバクテリアは無機栄養塩が供給される限り大きな問題なく生育することがわかった。一方、dgdA破壊株をリン酸欠乏培地で培養すると、生育に遅れが見られた。このことから、リン酸塩の欠乏した自然環境では、dgdA遺伝子はシアノバクテリアの生育によりよい効果をもたらすと考えられた。そこで、この現象がシアノバクテリア一般に見られるかを調べるため、他の単細胞性シアノバクテリアSynechococcus sp.PCC7942や糸状性シアノバクテリアであるAnabaena sp.PCC7120でdgdA遺伝子の破壊を試みた。その結果、これらのシアノバクテリアではdgdA遺伝子を破壊できなかったことから、シアノバクテリアの種によっては、DGDGを必須とすることがわかった。また、これらの株でリン脂質がDGDGを代替できるかを調べるため、リン脂質の蓄積する株を作成した。この株でdgdA遺伝子を破壊できるかを調べ、DGDGが膜の構成脂質としてだけではなく、その極性頭部が光合成膜に重要であるかを明らかにしたい。
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