研究概要 |
これまで、低リン酸環境下の植物の呼吸系の応答については、培養細胞を用いた研究例が多く、地上部と地下部それぞれにおける呼吸系の馴化機構やそれらの違いについては不明な点が多かった。本研究では、活性の高いミトコンドリアが単離でき、生化学的な実験が容易なホウレンソウを用いて、呼吸系のリン酸環境への応答を解析した。特にATP合成と共役しない複数の呼吸経路の応答に注目した。低リン酸(1μM,LP)と高リン酸(50μM,HP)でホウレンソウを水耕栽培し、その地上部と地下部を用いた。水耕期間中、葉と根のどちらにおいても重さあたりの呼吸速度には明確な変化がなかったが、葉のシアン耐性呼吸速度は増加していった。その増加はLP葉で顕著だった。水耕栽培1ヶ月後のホウレンソウの葉と根からミトコンドリアを単離し、電子伝達系活性とTCA回路の酵素活性の測定、Western blottingによるタンパク質量の定量を行った。また組織抽出液を用いて、解糖系酵素活性と有機酸量を測定した。その結果、低リン酸条件では、葉と根のどちらもATP合成と共役しているシトクロムc酸化酵素の活性が低下し、alternative oxidaseおよびtype II NADH DHの活性が増加していた。葉ではTCA回路のクエン酸合成酵素活性が低リン酸条件で増加していたが、葉の組織内のクエン酸含量はそれほど増加していなかった。一方、低リン酸条件の根ではクエン酸合成酵素の活性は増加していなかったが、組織内のクエン酸含量が増加していた。低リン酸下で葉で合成されたクエン酸は根に輸送され、放出されていることが示唆された。
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