平成21年度はATP合成酵素の活性調節に重要なγサブユニット上の調節領域もしくはεサブユニットの一部を削除したシアノバクテリアF_0F_1をもつ形質転換株を作成し、その増殖能、ATP合成活性およびATP加水分解活性などを様々な条件下で調べ、この酵素の活性調節が光合成機能調節全体に果たしている役割を生理学的に検証することを目的とした。はじめに、Synechocystis sp. PCC6803株のATP合成酵素γサブユニットの調節領域配列を欠失した変異株を作成し、細胞内のATP量の変動を調べた。その結果、光照射下でも変異株の細胞内ATP量は野生株の8割ほどであったが、暗所に移したときの減少量ははるかに大きく、ほぼ20%のレベルまで低下した。調節領域を欠失したATP合成酵素の性質から予想すると、この大幅な減少の原因は、暗所下でATP加水分解活性が阻害されないためと考えられる。この研究によって、ATP合成酵素の加水分解活性の抑制が、細胞の生理においても重要であることを明らかにした。また、上述したように光照射下でも変異株の細胞内ATP量の若干の低下がみられたが、これはATP合成能の違いなのか、合成と加水分解の平衡のずれによるものかを明らかにする必要がある。そこで、現在、変異株および野生株のチラコイド膜を調製し、そのATP合成活性を測定している。
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