研究概要 |
熱ショックタンパク質であるHSP90は変性タンパク質の巻き戻りを助ける分子シャペロンとして働き,シグナル伝達因子の機能を制御する働きがある.HSP90のシャペロン活性は遺伝子に生じた変異を隠蔽し,生物ゲノムが致死などの表現型を伴わず,漸次的に進化していくことに必須であると考えられている.動物において,HSP90は様々な因子と結合することが知られているが,植物におけるHSP90と結合する因子は未知であった.そこで,シロイヌナズナを用い,HSP90がどのような細胞内因子と結合し,その働きを調節するかを調べた.その結果,植物においてHSP90は熱ショック転写制御因子(HSF)と結合し,熱ショック応答の制御と高温耐性獲得に必要であることを見いだした.シロイヌナズナに一時的にHSP90阻害剤処理を行うと,熱応答遺伝子の誘導とともに高温耐性が獲得された.HSP90阻害剤や熱ショックで誘導される遺伝子のプロモーターには,HSFが結合する熱応答シスエレメント(HSE)が多く見つかった.シロイヌナズナにおいて常に細胞内に蓄積しているHSFA1はHSP90と結合し,この結合はHSP90阻害剤により阻害された.一方,HSP90の基質であるグルココルチコイドレセプターを発現させたシロイヌナズナを用い,HSP90活性をin vivoで測定したところ,熱ショックによりHSP90の活性が一時的に低下することがわかった.これらのことから,HSP90はHSFと結合しその活性を負に制御していること,熱ショックによるHSP90の活性低下がHSFを活性化し,熱応答遺伝子を発現させることが示唆された.
|