研究概要 |
個体あたりの器官の「数」は動物の種類によって, そして器官の種類によって異なる. 器官の数の進化は, どのような理由で? どのような機構で? そしてどのようなタイムスケールで生じるのだろうか? 昆虫類の雌雄生殖器・交尾器の形態は, このような器官の数の進化の原因・機構・時間スケールの研究に格好の材料であり, 本研究は昆虫類全般を対象とした「数の進化」の事例集約と整理を主目標の一つとしている. 今年度は研究代表者の異動にともない、研究計画に一部軽微な変更(優先順序の変更)を迫られたが、主に次に挙げるような成果を得た。 1. 昆虫類で最も原始的な形態を留めるとされるイシノミ類、及び次に原始的な形態を留めるとされるシミ類について、文献および実物資料に基づいて、交尾器形態の再検討をおこなった。両者の間には、実質的な射精口の数に差異があるものと考えられ、今後、機能解析をおこなう。 2. 交尾器パーツ数の進化的変化に関わる事象として交尾時のオスによるメスへの創傷行動が関与しているものと考え、前年度から継続して研究を継続している。創傷行動の意義に関しては、双翅目昆虫を材料に実験的研究を進めている。その他、鱗翅目や毛翅目の一部で、新たに創傷が生じている事例、またはそれが強く示唆される事例を発見し、発表の準備を進めている。 3. その他、文献調査および実物の検討による情報収集を、半翅目(一部), 鞘翅目(一部)、鱗翅目(一部)を中心に実施した。来年度はこれまでの調査が不十分である績翅目、鞘翅目、鱗翅目、長翅・脈翅系各目について、データを集め、昆虫類全体を俯瞰できる状況の確立を目指す予定である。
|