研究概要 |
褐藻類の細胞質分裂面では, 娘核近傍に存在する中心体から伸長してくる微小管が交差するとともに, プレート状アクチン構造(AP ; actin plate)が観察される。細胞質分裂面にはゴルジ体由来の小胞と小胞体由来の平板小嚢が集められ, それらの融合によって隔膜形成が行われる。本研究では褐藻ヒバマタ, エゾイシゲの受精卵を用いて細胞質分裂におけるAPの働きについて, アクチン重合阻害剤(latrunculin B ; LB)の投与や電子顕微鏡による観察で調べたところ, (1)隔膜形成に不可欠な平板小嚢の形成, (2)平板小嚢の細胞質分裂面への配置, (3)発達途中の隔膜からのエンドサイトーシスによる膜の回収に関与している可能性が示唆された。一方, ゴルジ体からの小胞分泌を阻害するbrefeldin A(BFA)の投与では, 前年度, 褐藻カヤモノリ接合子で報告した通り, (1)平板小嚢の分裂面への集積は観察されたが, (2)隔膜形成は完了せず, 著しい遅延が起こっている, (3)未完成の隔膜からエンドサイトーシスによる膜の回収が頻繁に行われていることが明らかになった。BFA存在下の細胞は, 細胞質分裂が未完のまま次の細胞周期が開始されることとなり, APは細胞周期の進行に伴って一旦消失することが明らかになった。しかしながら, 2回目の核分裂終了後, 4核となった娘核の間に再び, APが出現する様子が観察された。新たにAPが形成される領域は, 1回目の核分裂後に出現したAPの位置とは関係なく, 4核の娘核間で交差する微小管の部位に相当していた。本研究結果から, 細胞質分裂面決定には, 細胞質分裂面に形成されるAPではなく, 中心体から発達する微小管が重要であり, 細胞質分裂が完了しなかった場合, APの形成領域は, 細胞周期の進行とともに解消されることが明らかとなった。
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