機械感覚自己受容器による感覚フィードバックは、飛行の制御に重要な役割を果たしている。ハエやサバクバッタでは、このようなフィードバック経路の詳細な解析が行われてきたが、羽ばたきシステムが形態的・生理学的に両者の中間的な性質を持つ鱗翅目に関する知見はほとんど得られていない。本研究では、順行性染色による翅基部の機械感覚受容器から中枢への神経投射経路を詳細に解析した。まず、肩板の感覚毛の中枢投射を調べたところ、前翅に比べ後翅肩板の投射が明瞭で広範囲に渡っていたことから、サバクバッタの報告と同様に、後翅からの入力が羽ばたき調節に貢献していることが示唆された。一方、翅基部の鐘状感覚子群の中枢投射は、前翅・後翅ともに胸部神経節のみならず食道下神経節への投射が観察された。このことは、羽ばたきの情報が頭部の運動にもフィードバックされ、運動中の視野の安定化に貢献していることを示唆する。一方、スズメガと異なる羽ばたきの神経制御機構を持つマルハナバチの飛行の研究では、提示される視覚刺激に強く依存した羽ばたき周波数の調節が観察された。また、物体の接近を模した視覚刺激を提示したところ、一過的な羽ばたき周波数の上昇が常に観察された。この応答特性は、バッタの視覚系で報告されている衝突検知神経と非常に似通っていた。この結果は、末梢の羽ばたき制御機構の違いに関わらず、昆虫共通に存在して行動を指令する視覚介在神経の存在を示唆するものである。
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