研究概要 |
本年度は、まず、カラマツガイ属の一種、ヒラカラマツガイSiphonaria(Mesosiphon)atraの成体を採集し、成体の足部または内臓塊からゲノムDNAを抽出した。マウスやショウジョウバエの気管形成に関与することが知られている遺伝子、branchless(bnl,FGF family)、Sprouty(Spry)の、カラマツガイにおける相同遺伝子を単離するため、それぞれについてのdegenerate primersを作成し、カラマツガイのゲノムDNAを鋳型にpolymerase chain reaction(PCR)を行った。degenerate primersの作成は、Spryについては、DNAのデータバンクから得たショウジョウバエ、アフリカツメガエル、ニワトリ、マウスのアミノ酸配列に対し、ClustalW(DDBJ)またはpfam(NCBI)を用いて多重配列を得た後、保存性の高い領域を選んで行った。また、bnlについては、ショウジョウバエ、カイコガ、線虫、イソギンチャクそれぞれの相同遺伝子をもとに得られた多重配列より、Spryと同様に保存性の高い領域を選んだ。PCRのアニーリング温度を36〜50℃の範囲で変えながら、カラマツガイにおけるbnl、Spryの相同遺伝子のゲノム配列を得ようとPCRを行ったが、いずれの断片の単離にも至らなかった。また、軟体動物有肺類の中でも、より陸上化に適応したモノアラガイにおいても、bnl、Spryに対する上述のdegenerate primersを用い、ゲノムDNAを鋳型にPCRを行ったが、いずれの断片の単離にも及ばなかった。しかし、カラマツガイ、モノアラガイのゲノムDNAを鋳型に、elongation factor 1α(EF1α)に対するdegenerate primersを用いてPCRを行ったところ、いずれにおいてもEF1αと思われる断片が得られたことから、ゲノムDNAの抽出に問題はないと思われた。よって、bnl、Spryに対するdegenerate primersの設計に改善の余地があることが考えられた。動物界を大きく3つに分けた場合、軟体動物を含む冠輪動物群では、これまでbnl、Spryの相同遺伝子は単離されておらず、本研究において単離されれば、冠輪動物群では初めての報告となり、分子進化の視点からも重要な成果となり得る。
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