研究概要 |
本年度は, カサゴ目魚類のうち, フサカサゴ科のメバル属魚類とキチジ属, およびクサウオ科のコンニャクウオ属について研究を進めた. 胎生という特殊な繁殖様式を持つメバル属に関しては, キツネメバル複合種群の研究にとりかかった. キツネメバル複合種群には, キツネメバル, タヌキメバル, コウライキツネメバルの3種が含まれるとされるが, 主に体色の違いしかなく, 単なる種内の色彩変異と考える研究者もいる, しかし, AFLP法を用いた核ゲノムの分析により, 少なくともキツネメバルとタヌキメバルの間には明瞭な遺伝的差異があり, 別種の関係にあると考えられた. これらもメバル複合種群と同様, 色彩の違いによって同類交配が生まれ, 生殖的隔離を保っていると考えられる. また, メバル属のガヤモドキとヤナギノマイについても研究を始めたが, 分類学的な問題が見つかり, まずこれを解決することにした. 昨年度, メバル属のムラソイ複合種群, ヨロイメバル複合種群についてはデータを取り終えたので, これらについては論文にまとめ, 近日中に投稿予定である. これらの複合種群についても色彩多型が生殖的隔離の保持に役立っていると考えられた. 一方, キチジ属については, 背鰭の黒斑が大きく, 頭部の丸い型と, 黒斑が小さく頭部の長い型が見られ, これらについて研究を進めたが, これらは成長による違いである可能性が高いという結果になった. キチジ属は色彩の違いによる生殖隔離は見られず, 色彩の違いはメバル属とは異なった意味を持つものと考えられる. 昨年度から続けているコンニャクウオ属のサケビクニン複合種群については, やはり色彩多型間には形態的・遺伝的差異は認められず, 色彩多型で生殖的隔離が保たれているわけではないと言うことがわかった. しかし, これらは, 地域間の形態的・遺伝的差異が大きく. 日本近海の生物地理を考える上で非常に興味深い対象種である事がわかってきた. おそらく大きな卵を産むことによる分散能力の低さが関係しているものと考えられる. また, クサウオ科のスイショウウオ属についても色彩多型が見つかったので, 研究を始めた.
|