大陸間に広く分布するアカガエル科とヒメアマガエル科に注目し、分子系統地理学的見地から、現在のカエル類の分布パターンの形成と大陸移動の関係を調べることを目的として研究を行った。 本年度は、(1)各大陸に分布するカエルサンプルの収集、(2)効率的に収集ができたアカガエル類について、ミトゲノム部分領域の増幅と解析、(3)系統・分岐年代解析の際に外群として必須のアナホリガエル・サエズリガエル科のミトゲノムの解析、(4)従来ヒメアマガエル科に含まれていたがその所属位置について疑問のあるフクラガエルのミトゲノム解析、(5)ミトゲノムの塩基配列を用いて分岐年代推定を行う際の問題点と改善策の検討を行った。 (1)に関しては、目標のサンプルの約8割の収集ができたが、アフリカ・南米産のヒメアマガエル類が未だ集まっておらず、来年度以降もサンプル収集を引き続き行う必要がある。(2)については、アカガエル科の一部サンプルについてミトゲノムの増幅を行った所、複数のアフリカーアジア産グループに跨がってそれぞれ特異な増幅パターンが観察され、それぞれの系統的近縁性が示唆された。ここから、アカガエル科では複数のサブグループが大陸移動に伴って分布域を広げた可能性がある。(3-4)については、これらの科のミトゲノムには特異な遺伝子配置パターンが共通してみられた。この配置パターンは、フクラガエル属にも見られたため、本属は従来認識されていたようにヒメアマガエル科のメンバーではなく、むしろ、サエズリガエル上科に含めることが妥当であると結論できた。また、サエズリガエル上科はアフリカのみに分布するのため、この上科の起源はゴンドワナ大陸ではあるが、その後の大陸移動イベントにはほとんど関与していないことが示唆された。(5)の成果については、Gene誌(407巻116-129ページ)に発表した。
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