大陸を跨いで分布するカエル類の系統関係と分布パターン形成様式、および、ミトゲノムの分子進化の解明を目的として研究を行った。本年度は、まず、ヒメアマガエル科・8亜科から25種とアカガエル上科の3科5種について、6つの核遺伝子およそ5.7kbpのシークエンスを行った。このデータから、これまでに分類学的位置が不明なPhrynella属(マレーシア産)は、アジア産のヒメアマガエル亜科に属するが、同じく系統学的位置が不明であったGastrophrynoides属(同じくマレーシア産)については、オーストラリアヒメアマガエル亜科に含まれることが分かった。これまでに両亜科はインドとオーストラリアが地理的に分断された、およそ8000万年前に系統的に分岐したと考えられていたが、本属の存在によって、この考えは改編を求められる可能性が出てきた。現在、核遺伝子データに基づく詳細な系統解析と分岐年代解析の実施を準備中である。次に、ヒメアマガエル科とアカガエル科のミトゲノム部分領域の解析を行った。まず、ヒメアマガエル科のいくつかの種では、遺伝子配置が変化していることを発見したが、その多くは固有派生形質であり、系統解析のマーカーとして使えないことが分かった。一方、アカガエル科でも、多くの属で大規模な遺伝子配置変化が見られ、これらの変化は属間の系統マーカーとして有用であることが明らかとなった。さらに、アカガエル科のミトゲノムの観察から、ミトゲノムにおいてレトロトランスポジション様の遺伝子配置変化機構が働いている可能性が示唆した。後者の成果については、Mol.Phylogenet.Evol.誌で印刷中である。また、真カエル亜目のミトゲノムの全長を簡単に増幅できるプライマーを開発したので、Current Herpetol.誌(28巻1-11ページ)に発表した。
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