研究概要 |
1, 原始的な被子植物の仲間であるモクレン類は南北両半球の温帯域に隔離分布するが,それに依存する訪花性甲虫も系統的に近縁なものであるかを調べる目的で,南半球の温帯域に属するニューカレドニアにおいて調査を行った.その結果,各種被子植物の花序より多数の訪花性ゾウムシ類を採集した.得られた分類群を形態学的に検討したところ,ほぼ1族の分類群(Storeini)に限定されていて,北半球でモクレン類に依存している分類群(Ocbyromerini)とはそれほど近縁でない別系統の分類群であることが明らかとなった.しかし,南半球で得られた分類群は,北半球を中心に分布し,ヤナギ科,ツバキ科,ツツジ科などに依存する分類群(Ellescini)に非常に良く似ていて,系統的にも近縁と思われることから,南北両半球の温帯域を中心に対立分布をする分類群が存在するということには変わりない. 2, 昨年まで調査していたヤシ類の訪花性ゾウムシ相に見られた結果と合わせると以下のような事実が明らかとなってくる. 1) ヤシ類のような汎熱帯分布を示す分類群,モクレン類のような南北両半球の温帯域に対立分布する分類群が植物で見られるが,それらの花粉媒介に関与する分類群は,旧世界熱帯と新世界熱帯,あるいは北半球温帯と南半球温帯の地域間で系統的に異なる分類群で構成される。 2) 原始的な植物の高次系統進化と並行して訪花性甲虫相が分化したというよりむしろ,地域ごとに異なる訪花性甲虫相が独自に形成されたと考えられる. 3) 一方,地域内での植物種と花粉媒介に関与する訪花性甲虫相は,密接な関係をもって進化してきた可能性が高く,今回の研究で解明してきた関係は有用植物種も含み,今後,生物資源保全や系統保存上重要なデータとなる.
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