糸状性シアノバクテリアは、細胞分化や分枝形成といった多細胞生物的な性質を持ち、発生学的・進化学的に興味深い。しかし、その多様な形態の形成機構や進化過程には不明な点が多い。本研究では、スチゴネマ目シアノバクテリアを材料に、その分枝形成の分子レベルの解析を通して、糸状性シアノバクテリアの形態的多様化の背景の解明を目指した。本年度の研究内容は、以下の通りである。 1. 前年度に解析したスチゴネマ目5属13株と、系統的多様性を反映するように糸状性シアノバクテリアを合わせた計12属25株を材料に、16S rRNAと異質細胞形成制御遺伝子に基づく分子系統樹を作成したところ、当該グループの単系統性が支持された。また、スチゴネマ目の系統進化について、ボストン大学の研究者と化石記録も含めた議論を行った。 2. スチゴネマ目シアノバクテリア5属8株について行った培養と形質転換効率の結果に基づき、PCC株を材料にしたトランスポゾン変異体の作成に成功した。しかし、得られた株の中には形態形成の変異体はみられなかった。 3. スチゴネマ目にみられる分枝形成過程を観察するため、モデル生物で利用されている自家蛍光タンパク質GFPをレポーターとして利用し、特に細胞分裂過程の可視化のための実験系の構築を行った。シアノバクテリアには強い自家蛍光が存在するため、十分なシグナルを得るためにはフィルターの最適化だけでなく、レポーター遺伝子配列の改変を今後の課題として残した。
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