研究概要 |
医学薬学実験に用いられる霊長類のひとつであるマカク属サルの遺伝的多様性を一塩基多型(SNP)レベルで調査した。本研究では特に,東南アジアおよび東アジアに生息するカニクイザル(Macaca fascicularis)とアカゲザル(Macaca mulatta)を中心に解析を行う。これらの二種は実験に用いられている霊長類の中でも世界中で幅広く使われているメジャーなものであるのに加え,その遺伝的関係や種分化様式など生態学的にも非常に興味深い種のペアーである。本年度は24個体のカニクイザル(インドネシア,マレーシア,フィリピン産)と5個体のアカゲザル(中国産)のサンプルについて,上染色体上の54座位(27遺伝子間領域と27遺伝子領域)について解析を行った。 解析の結果,カニクイザルはヒトのおよそ4-5倍のDNAレベルでの遺伝的多様性を示し,非常に遺伝的多様性に富んだ種であることがわかった。しかし,タンパク質をコードするアミノ酸配列の比較では,マカク種内のアミノ酸変異レベルはヒトの約半分であった。これはマカクがヒトよりも比較的大きな集団サイズを取ることが原因であると考えられ,有害なアミノ酸変異が効率よく除去されているからであると考えられる。したがって,これらのマカクのアミノ酸レベルでの多様性は,ヒトのおよそ2-3倍であることが予測される。また,フィリピン産のカニクイザルは他の地域のカニクイザルと非常に大きな遺伝的分化を示していた。
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