研究概要 |
感染症などの医学研究, 創薬などの薬学研究において, 哺乳類実験動物, 特に霊長類はヒトとの近縁性により重要な役割を占める. ところが, 医薬学の実験にサル類の遺伝的多様性がどのような影響を及ぼすかは全くの未知数である. また, これらの実験用霊長類のなかにどれだけの種間・種内の遺伝的多様性があるのかもはっきりとはわかっていないのが現状である. これらを明らかにするため, 平成19年度では3地域24個体のカニクイザル, 1地域5個体のアカゲザルについて常染色体上の27遺伝子領域, 27非遺伝子領域の配列を各個体ゲノムDNAより決定した. 平成20年度はこれらに加えX染色体上の9領域について配列決定を行った. 得られたデータの集団遺伝学的解析により, アカゲザルとカニクイザルの間には種分化後の遺伝子交流が存在することが示唆された. また, X染色体上の領域は非遺伝子領域においても極端な集団内多型の低下が観察された. X染色体領域での多様性の現象はこれまでヒトやハエの集団でも報告されているが, それに比較してもマカクでの偏りは非常に高かった. 雄優位な移住率の違い, 集団サイズの変化, 自然選択など様々な要因が関係している可能性が強い. 今年度は更に薬物代謝など様々な代謝に関連しているシトクロームP450(CYP)遺伝子の配列を7領域について解読した. CYP遺伝子は生物が環境に適応する際に非常に重要な遺伝子と考えられる. これらの遺伝子は非コード領域においても他の領域よりも有意に高い種差を示した. これは自然選択がCYP遺伝子領域での遺伝子交流を妨げていることが原因であると推測される. その中で最も高い集団分化を示したCYP3A5遺伝子について全exon領域での遺伝子解析を行い, 3つのアミノ酸変異が種間でほぼ固定していることを発見した. これら3つのアミノ酸変異はすべてタンパク質の機能的に重要な位置に位置しており, 食物を含む異物に対する代謝の種間差に関連しているのではないかと考えられる.
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