本年度は緑膿菌におけるスフィンゴ脂質応答遺伝子の探索及び、細菌セラミダーゼの機能解析に関する研究を計画していた。 緑膿菌におけるスフィンゴ脂質応答遺伝子の探索に関しては、緑膿菌セラミダーゼ遺伝子をβ-ガラクトシダーゼ遺伝子に置き換えた緑膿菌の変異体を取得することに成功した。この変異体を用いて、スフィンゴ脂質に対する応答を調べたところ、スフィンゴミエリンを加えたときにβ-ガラクトシダーゼ活性が顕著に誘導された。我々はこれまでに、セラミダーゼがスフィンゴミエリンにより顕著に発現誘導されることを見いだしており、本変異体がセラミダーゼの発現解析並びに、スフィンゴ脂質応答遺伝子の探索に有用であることを示している。また、緑膿菌をスフィンゴミエリンを含む培地と含まない培地で培養し、それぞれからRNAを抽出して緑膿菌マイクロアレイにより、スフィンゴミエリンにより誘導される遺伝子を網羅的に探索した。その結果、セラミダーゼや溶血性ホスホリパーゼC(スフィンゴミエリナーゼ)など幾つかの遺伝子がスフィンゴミエリンにより発現誘導されることが明らかになった。 細菌セラミダーゼの機能解析に関しては、ヒト肺由来の細胞に対して緑膿菌の溶血性ホスホリパーゼCとセラミダーゼを作用させて細胞を観察した。その結果、溶血性ホスホリパーゼCとセラミダーゼを単独で作用させても細胞に大きな変化はないが、同時に作用させると細胞増殖が顕著に抑制されることを見いだした。また、その際に細胞内外においてスフィンゴシンが増加していたことから、細胞増殖の抑制はセラミダーゼの作用によって生じたスフィンゴシンにより引き起こされているとことが推察された。これらのことは緑膿菌が肺に感染したときに、溶血性ホスホリパーゼCとセラミダーゼが協調して働き、感染部位の細胞に大きなダメージを与え得ることを示唆している。
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