研究概要 |
当該年度では、(1) ヒトアミノペプチダーゼN(APN)の大量発現系の構築(2) 大腸菌APNを用いた基質認識機構の解明を行ってきた。(1) 膜結合酵素であるヒトアミノペプチダーゼNと細胞質酵素であるヒトピューロマイシン感受性アミノペプチダーゼの酵母Pichia pastrisを用いた大量発現系の構築を行ってきた。しかしながら、現在のところ目的酵素の発現に成功していない。今後の検討課題である。(2) 大腸菌APNについて、野生型酵素とともにM260A変異体酵素のX線結晶構造解析に成功していた。さらに野生型酵素と生産物であるLeu、新規阻害剤およびM260A変異体酵素とArg, 酸-βNA基質を用いた活性測定から、M260A変異体酵素は、N末端がArg, Ala, Leu, Lysである基質を順に好むことを明らかにした。野生型ではArg、Lys, Ala, Leuの順であり、M260A変異体はArgに対する高い活性を保持していたものの、Lysに対してはK_<cat>/K_M値で野生型の13.2%に低下していた。またM260A変異体は本酵素に特徴的であったPro基質に対する活性を失った。Met260は活性部位の基質N末端側鎖を収容するポケットに存在する。このM260A変異体のLys基質に対する活性の低下は、速度論解析とX線結晶構造解析から、Metの疎水性側鎖がポケットから除去されたことによって、Lysの活性部位への親和性が強まった結果であると推定された。我々は前年度の研究から、このMet260側鎖のコンホメーション変化によってN末端側鎖結合ポケットの大きさを変化させ、本酵素が多様な基質を認識することを明らかにした。さらにLysなどの親水性アミノ酸生産物を活性部位から遊離させやすくする役割を担うと推定した。
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