高度好熱菌tRNAを耐熱化する働きをもつ硫黄化修飾の生合成機構の解析を行った。既に同定している生合成因子(IscS、SufS、TtuA、TtuB)と硫黄を含む補酵素の生合成因子との比較から新規候補因子TtuCをデータベースから同定した。TtuCの遺伝子破壊株を作成し、tRNAを解析したところ、硫黄修飾が欠損しており、TtuCが新規生合成因子であることがわかった。そこでこれらの生合成因子の組換タンパク質を調製し、試験管内でのtRNAの硫黄化反応を放射性同位体標識および質量分析法により解析した。その結果、まずTtuBはTtuCによりアデニル化された後、IscS/SufSにより遊離L-システインから活性化された硫黄原子を受け取りチオカルボキシ中間体を形成する(TtuB-COSH)。その後TtuAにより、TtuB-COSHからtRNAに硫黄原子が転移されることをあきらかにした。これまでの硫黄修飾の研究からペアスルフィド(R-COSH)中間体が硫黄修飾の生合成に関与する系が既に知られていたが、本研究はチオカルボキシ体という新規の中間体が硫黄修飾の生合成に重要な役割を果たしていることを世界に先駆けてあきらかにした(2008EMBO)。また他の生物の硫黄修飾の生合成系との比較を行うことにより、新規因子TtuDも同定した。 またTtuCの遺伝子破壊株を解析したところ硫黄を含む補酵素であるモリブデン補酵素とチアミン補酵素の生合成ができないことをあきらかにした。この結果はtRNAの硫黄修飾と含硫黄補酵素の生合成系の機能的および進化的関連性を強く示唆するもので、生体内の硫黄化合物の生合成系の進化を考える上で非常に興味深い知見をあきらかにすることができた(2008EMBO)。
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