研究概要 |
ATP合成酵素がプロトンの輸送により回転する機構を理解するためには、プロトンチャネルを形成するF_oaとプロトンを結合して回転するc_<10>-リングの複合体の構造と相互作用を明らかにする必要がある。この複合体は精製や結晶化の際に解離しやすいという問題がある。それを解決するために、好熱菌BacillsPS3を用いて、F_oaとc_<10>-リングを一本のポリペプチドとして融合した(c_<10>-a)F_oF_1と(c_<10>-a)F_oを調製した。aサブユニットにはすべての生物種のATP合成酵素で保存されたアルギニン残基(aArg169)がaサブユニットとcサブユニットの境界にあり、c_<10>リングの回転制御に重要だと考えられている。実際、aArg169をGlu,Ala,Val,Ile,Lys,Phe,Trpに置換した変異酵素は、ATP合成活性、ATP駆動のH^+輸送活性は完全になくなり、c_<10>リングが回転しないことが示唆された。しかし、これらのaArg169変異酵素のうち、R169E、R169AおよびR169V変異酵素はH^+を透過することがわかった。このH^+の透過はcE56Q変異により完全に防がれた。c_<10>リングの回転を制御するために10個のcサブユニットとaサブユニットを一本のポリペプチドとして融合した回転のできないc_<10>-a融合ATP合成酵素を利用した。このc_<10>-a融合ATP合成酵素はc_<10>とaを結ぶリンカーを切断すると活性を持つことから、本来の構造を模倣している。分析した結果、c_<10>-a融合ATP合成酵素はH^+を透過しないが、aArg169をAlaに置換したc_<10>-a融合ATP合成酵素はH^+を透過することが判明した。このことから、aArg169はc_<10>リングの回転を介さない短絡的なH^+の透過を防ぎ、H^+の流れをc_<10>リングの回転に連動させる役割があることが明らかとなった。(Biochemical Journal 2010 Mitome et.al.)
|