本研究は、癌の浸潤・転移の制御を目指し、癌細胞の細胞膜近傍におけるマトリックスリモデリング制御機構を明らかにすることを目的とする。癌細胞は、腫瘍組織に形成される細胞外マトリックスと相互作用しながら運動性を亢進し、浸潤・転移する。私たちは、これまでに、癌細胞の細胞膜近傍における細胞外マトリックスのリモデリングが、癌細胞の浸潤・転移能において重要な役割を担っていることを見出した。特に、細胞外マトリックスの主要構成分子であるヒアルロン酸が、分解酵素の作用を受けて低分子化することが鍵であり、このようにして生じた低分子量ヒアルロン酸が、癌浸潤促進作用を有することを見出した。平成20年度では、平成19年度に引き続いて、次のことをおこなった。ヒアルロン酸のカルボキシル基をAlexa Fluor 488で修飾し、蛍光ヒアルロン酸を作製した。作製した蛍光ヒアルロン酸を基質として、蛍光偏光法により、分解酵素ヒアルロニダーゼの活性を定量的・経時的に測定することが出来た。ヒアルロン酸の低分子量化は、電気泳動法によるヒアルロン酸分解の検出法で確認した。また、癌細胞の浸潤促進能を有するサイズのヒアルロン酸分子が生じていることを、高速液体クロマトグラフィにより確認することが出来た。本研究により、癌細胞表層の細胞外マトリックスのリモデリングに焦点を当てた、癌浸潤・転移の制御に向けての基盤となる方法と知見を得ることが出来た。
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