ORキナーゼは、真核生物全般に保存されたセリン・スレオニンキナーゼでありTORC1とTORC2という2つの複合体を形成してそれぞれ異なる細胞内シグナル伝達経路を制御している。本研究では、TORC2複合体の下流シグナルを、酵母遺伝学を用いて明らかにすることを目的として、解析を行ってきた。TORC2複合体の下流因子としてSlm1/Slm2という相同分子とIscl呼ばれるスフィンゴ脂質分解酵素を鍵因子として解析を行った。まず、Isc1とSlm1/Slm2とが細胞内でどのような分布をするかを調べたところ、Isc1は、主に細胞膜に局在したが、Slm1で見られるようなドット状の局在を示さず、これら2つの分子は、細胞内では全く異なる場所で機能することが予測された。また、遺伝学的な解析からSlm1-Isc1シグナル経路は、TORC2複合体の下流においてPkh1-Ypk1という2つのタンパク質キナーゼからなるシグナル伝達経路と平行して、最終的にスフィンゴ脂質代謝経路をそれぞれ分解と合成という相反する反応により制御するが示唆された。これらの結果から、熱ショックなどの細胞外ストレスに対して、スフィンゴ脂質代謝経路が、TORC2複合体下流シグナルであるSlm1-Isc1経路とPkh1-Ypk1経路をそれぞれ独立して自身の分解反応と合成反応により時間的・空間的に制御し、最終的にアクチン細胞骨格を制御ていることが考えられた。
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