研究概要 |
NMR法による種々イミダゾール基互変異性平衡の観察の結果,一般的なヒスチジンの互変異性は水素結合に支配されるという規則性を見出した.これを炭酸脱水酵素活性部位の亜鉛-His64間の水素結合の作用様式に当てはめた結果,本酵素触媒反応に見られるプロトントランスファの機構を合理的に提唱するに至った(Shimahara, J. Biol. Chem.,2007,282,9646,).この機構は,従来説において中心と考えられていたイミダゾール基配向変化に依存しないため,以前よりまして白熱する論争の様子が本酵素研究重鎮の総説(Silverman, Acc. Chem. Res.,2007,408,669-75)に見てとれる.最近,QM/MM法を用いたシミュレーションが行われた結果,プロトントランスファは配向よりむしろ静電的作用によると報告され,(Riccardi. Biochemistry,2008,47,2369),本機構の妥当性が高まっている。このような状況下,我々は,2007年度,X線結晶構造PDBから抽出した亜鉛-His64とその間の水架橋からなる活性部位モデルにGaussian03量子化学計算を適用し,互変異性変化に関わる自由エネルギーを算出する実験を行った.その結果,上記の規則性が本酵素活性部位においても成立することを理論的に証明し,提唱プロトントランスファ説の根幹にある実験理論間の整合性を示すに至った.一方,新たに行った阻害剤を用いたNMR実験においては,スルフォンアミド系阻害剤とアニオン系阻害剤の交換遅速が予測通りNMR時間軸上異なっていた.特に前者では互変異性平衡が変化し,酵素阻害剤複合体において,亜鉛-His64間の水素結合相互作用が弱められていることがわかった.内容の一部は2008年5月号「化学」p64-65「生物系のプロトントランスファ」島原秀登著から引用した.
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