キネシン分子モーターは、微小管との間で力を発生する頭部と、輸送する物質に結合する能力を持つ尾部からなる。本研究ではキネシン頭部の向きがそろった実験系において微小管の滑り運動を観察し、キネシン頭部の柔軟性と運動特性の関係を、さまざまな変異体キネシンを用いて解析することを目指した。 ミオシン尾部とキネシン頭部からなるキネシンキメラ分子は、キャッチンと共重合させることによって長いキネシン繊維を再構成し、その上で微小管の滑り運動実験をおこなうことができる。この再構成キネシン繊維上ではキネシン頭部の向きがよく揃っていると考えられている。本年度は、さまざまなキネシンキメラの変異体をもちいて、再構成キネシン繊維上での微小管滑り速度の解析をおこなった。その結果、キネシンのネック部位がそこなわれていないばあいは、微小管の運動速度は運動方向によらず一定であるが、ネック部位に欠失があるばあいは、微小管が再構成キネシン繊維の中央にむかう方向の運動速度が、その反対方向(すなわちキネシン繊維の中心から離れる方向)の運動速度よりも、わずかに、しかしながら統計的に有意におおきいことがわかった。 ネック部位に欠失があるキネシン頭部は柔軟性が失われているため、この結果は、キネシンの柔軟性、とくにその頭部の柔軟性が運動速度に影響を与えていることを示している。この研究結果をまとめた論文はJournal of Muscle and Cell Motilityに発表した。
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