微小管の上を単分子で運動することが知られているキネシン分子モーターは、微小管との間で力を発生する頭部と、輸送小胞などに結合する能力を持つ尾部からなることが知られている。本研究ではキネシン頭部の柔軟性と運動特性の関係を解析することを目指した。 私は以前より、キネシン単分子運動の化学・力学特性を理論的に明らかにすることを目的として、英国バーミンガム大学のNeil Thomas博士との共同研究を行っている。私とThomas博士は、過去の共同研究において、キネシンやミオシンVなどの分子モーターの運動と揺らぎに関する、熱力学的に無矛盾な一般的理論を既に確立している。これまでにも、この一般理論とキネシン分子の構造解析の知見に基づいて、キネシン分子の2つの頭部が協調的に結合と解離を繰り返しながら微小管上を歩行するという「キネシン歩行モデル」を構築し、理論的考察および計算機シミュレーションによって、これまでに知られているキネシン単分子運動の性質を解析し、いくつかの論文を発表した。 本年度は、上記の「キネシン歩行モデル」をATP加水分解を含まないステップについて拡張することによって、変異体キネシンと野生型キネシンのヘテロダイマーの運動速度や、キネシン単分子の歩行運動において観察される前進ステップと後進ステップを詳細に解析した。この解析結果はJournal of theoretical Biologyに発表した。
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