癌細胞の多剤耐性能獲得は臨床の場において大きな問題となっている。多剤耐性の獲得機構には、薬剤排出に寄与するABCトランスポータ等の多量発現が知られている。しかし一部の癌細胞ではVaultと呼ばれる粒子の多量発現が見られ、これが多剤耐性に寄与していると考えられている。Vaultは13MDaのリボヌクレオプロテインであり、広範な生物種において存在が確認されている。ヒトのVault粒子は3種のタンパク質と3種のnon-coding RNAから構成されている。Vault粒子のタンパク質成分と薬剤との相互作用はこれまではまだ見出されていない。この事は、VaultのRNA成分が薬剤との相互作用を担っている可能性を示唆する。そこで本研究ではVault粒子のRNA成分と薬剤との相互作用をNMR法等によって研究した。昨年度の研究より、RNAに薬剤を添加する事で誘起されるNMRスペクトルの化学シフト値の変化から、Vault RNAは様々な抗癌剤とある程度共通の部位で結合する事が分かった。そこで、より詳細な相互作用機構を解析するため、長距離情報を得る事ができる新規な測定法の応用と開発を試みた。モデル分子として、2つのドメインで1つの標的RNAと結合するMusashiタンパク質を用いた。Musashiタンパク質に常磁性緩和を誘起する分子を導入した。常磁性緩和は一般的なNMR測定で得られる距離情報の5倍以上の長距離情報を得る事が可能である。常磁性タグ付加Musashiのみの場合と、常磁性タグ付加Musashiに標的RNAを添加した状態とでNMRを測定し、スペクトルを比較する。この5事で標的RNA添加に伴うMusashiの長距離に渡る構造変化を検出する事が可能になった。この手法はRNAにも応用可能であり、VaultのRNA成分と薬剤との相互作用に適用する事で、詳細な相互作用機構の解明を試みたい。
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