研究概要 |
本研究は,無細胞タンパク質合成技術を利用して光受容膜タンパク質の大量機能発現系を開発し,詳細な機能解析に応用することを目的とする。昨年度までに脂質界面活性剤共存法による合成技術の開発は完了し,大腸菌で大量発現が困難であるARI,ARIIなどの別の光受容膜タンパク質の大量機能合成にも成功した。本年度は,大腸菌を含む生細胞発現系の構築が困難とされている光受容膜タンパク質の1つであるキサントロドプシン(XR)について無細胞タンパク質合成を試みた。XRは,サリニキサンチン(SXN)と呼ばれる第2の発色団(第1発色団は,all-transレチナール)を持っており,変異体解析による機能解析やSXNの役割を解析するためには,SXNがない状態の組換え体を用いることが有用である。しかしXRの発現系は報告されておらず,SXNの役割はおろか変異体による解析も不可能な状況である。無細胞タンパク質合成系をXRの発現に用いることでSXNフリーのXRを構造を保持した状態で大量に得ることが出来た。合成産物のフォトサイクルは,SXNを化学的分解除去した天然XRと同様であったため,本系はXR研究にとって非常に有用であると考えられる。さらに詳細に解析するために,ドデシルマルトシドによる可溶化,ニッケルアフィニティーカラムによる精製を試みた。しかし界面活性剤による可溶化の効率が悪く,測定可能な収量が得られなかった。そこで可溶化効率をあげるために,バッファーpH,塩濃度を検討した結果,酸性状態(pH 5.7)で収量が増加し,純度の高い試料を得ることができた。しかし,測定に十分とは言えず,現在,さらなる効率化のために無細胞タンパク質合成条件(共存脂質の量や種類,共存界面活性剤の種類)の検討を行っている。
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