研究実施計画書に記された標準試料を調製し、鉄原子の吸収端近傍(7.11keV)にて異常分散小角散乱の予備実験を行った。7keV近傍では試料の自己吸収効果が著しく、最初に行った予備実験で定量的なデータを取得するに至らなかった。そこで、ウシ血清アルブミンを試験サンプルとして利用し、7keV近傍での散乱測定に最も適したセル光路長を検証した。光路長を3〜0.5ミリまでの範囲で検証したところ、1〜1.5ミリで最も高感度・高S/N比の結果を得た。これらの基礎データに基づき、7keV近傍に最適化されたセルを来年度の予算で作成する。これによって、より安定かつ定量的に散乱データを計測できるようになると期待されるため、来年度には再度、標準試料を用いた鉄原子の吸収端近傍の測定を行う。 また上記と並行して、セレンK吸収端近傍(12〜13keV)で異常分散小角散乱実験を行うための基礎準備を進めている。本年度は、セレン標識試料を調製するためのプラスミドや大腸菌宿主などを準備した。現在、標識試料の発現量を向上させるための条件最適化、そして標識済み試料の分離精製について予備実験を進めているところである。また、観測に足る十分な異常分散強度を得るために、野生型タンパク質に変異を導入してセレノメチオニンを大量に導入した試料調製についても検討している。しかし一方で、蛋白質本来の活性が失われてしまう可能性もあるため、今後、予備実験を行って置換場所・数を試行錯誤する計画である。
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