初年度より、鉄原子の吸収端近傍(7.11keV)で異常分散小角散乱の計測実験を試みてきたが、未だ異常分散信号を定量的に記録することに成功していない。今後、より感度の高い微分型検出器を利用しつつ信号の検出に取り組んでいきたい。 計測実験と並行して「多連セル」の作成を行ってきた。観測ポートごとの微妙な差を最小限に抑えることにほぼ成功しつつあり、今後、一連の散乱計測に要する時間や手間を大幅に短縮できるようになると期待される。 異常分散小角散乱を検出する際、試料からの散乱を異なる波長で記録し、それらの間で定量的に加減算を行う。従って、個々の散乱強度は入射ビーム強度や検出感度について厳密に規格化されている必要があり、単分散状態に調製された標準タンパク質試料を用いた強度補正が必要不可欠となる。汎用性の高い標準タンパク質をリストアップし、それらの流体力学的諸性質を動的光散乱や分析超遠心で詳しく検証することで、単分散に極めて近い状態で試料調製する手法を確立した。単分散状態が保障された標準タンパク質について、並進拡散係数と沈降定数から分子量を見積り、同時に、X線小角散乱測定から原点散乱強度を決定した。見積もられた分子量と原点散乱強度には良好な比例関係が確認でき、平均して8%以内の精度で分子量推定が可能であることが示された。確立された試料調製法は、今後、異常分散小角散乱の信号検出に大いに役立つものと期待される。
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