脳において神経細胞は高度に多様化している。しかしながら、その多様性がどのようにして作られるかは未知の部分が多い。本研究は、神経細胞の多様化メカニズムを分子レベルで理解することを目的として、脳神経系で発現する多様化膜分子群クラスター型プロトカドヘリン(Pcdh)に注目して研究を行う。我々のこれまでの研究からPcdhは個々の神経細胞ごとに異なった発現プロファイルを示すことで神経細胞に多様性を与えることが明らかとなっている。このPcdhの発現制御は対立染色体独立的に行われていることから、転写制御シスエレメントの関与が指摘されているものの未解明である。そこで本研究ではPcdhの発現制御を担う転写制御シスエレメントの同定と機能解析を遺伝子改変マウスを用いてマウス個体レベルで行う。本年度においては、まず、マウスーオポッサムーヒトなどの動物ゲノム配列比較解析を行なうことで転写シス制御エレメント候補として進化的に保存された非コード領域を複数同定した。この中にはすでに研究代表者が研究を進めているSR領域やT領域ならびにRibichらによって報告されたHS5-1領域が含まれていた。さらに、これら3領域について遺伝子ターゲティングを進めた。T領域およびHS5-1領域についてはターゲティングベクターが完成し、ES細胞への電気穿孔法導入を行なった結果、T領域については現在解析中であるがHS5-1領域については5クローンの相同組換え体が得られたため現在これらを用いてキメラマウスを作製中である。一方、SR領域については既に得られていた生殖系列伝達キメラマウスを用いて交配を進めた結果、現在までにSR領域欠損マウスの取得に成功した。これまでにSR領域欠損マウスは生存可能であることが明らかになっており、現在詳細な解析を進めている。
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