本研究では、発生過程のHSF群の転写制御機構を明らかにするのを目的としている。そこで、発生過程におけるHSF群の発現変化、さらにin vivoにおけるHSF4の結合配列を同定し、HSF群の親和性の違いや結合領域周辺に存在する遺伝子の発現制御について検討を行った。マウス胎生期にはすべてのHSFが高発現しているが、HSF1とHSF2は出生後から極端に発現が低下し、HSF4の発現は成体に至るまで持続した。次に、生後2日目のレンズ上皮細胞株を作成してChIP解析を行い71箇所の結合領域を同定した。そのうち、58領域は生後2日目のレンズを用いたChIP解析で結合を確認し、このうち17領域はどの発生時期もHSF4のみが結合した(A群)。一方、41領域はHSF1あるいはHSF2の結合も認められ、生後2日目にすべてのHSFが結合するも、HSF4とHSF1が結合するもの、HSF4とHSF2が結合するものに分かれた(B群)。A群は、近傍の遺伝子から10kb以上離れた領域(intergenic loci)に存在する傾向があり、B群は、intergenic lociとプロモーターを含む遺伝子領域にともに存在した。HSF4を欠損するレンズにおける近傍遺伝子の発現を調べた所、A群は全く遺伝子発現に変化がなかった。興味深いことに、B群のうち9個の遺伝子の発現亢進、又は低下を認めた。それらの遺伝子の中で、HSF結合領域はイントロン領域に存在する傾向を強く認めた。以上の結果から、HSF群は発生過程で協調的制御を行うこと、さらにHSF4がユニークな機能を有する可能性が示唆された。
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