ミオシンVは主に細胞内の小胞輸送に関与し、複雑なメンブレントラフィックにおける能動的輸送の一端を担っている。細胞内での複雑な輸送を担うためには高度な運動制御機構が存在するはずである。しかしながらそのメカニズムに関してはほとんど明らかになっていない。近年、In vitroでの解析より、モータードメインと球状尾部が結合することによる折りたたみ構造が観察されている。この構造状態の変化が細胞内での制御に関与する可能性が示唆されている。しかしながら、その実例は現在のところ発見されていない。一方、コイルドコイル形成領域(ストーク)の一部を削除すると折りたたみ構造の形成が阻害されることから、折りたたみ構造形成にストークの長さが重要であることが報告されている。 本研究では、ストーク長を短くし、折りたたみ構造形成能を阻害した変異ミオシンVbをHeLa細胞で発現させることによって、膜交通制御における折りたたみ構造の役割を明らかにしようと試みた。ミオシンVbは、トランスフェリンレセプターを含む小胞に結合し、トランスフェリンのリサイクリング過程における細胞辺縁でのエンドサイトーシス経路に関与している。通常ミオシンVbが運搬する小胞は、細胞内全域、特に核周辺に分布している。ストークを短くした変異ミオシンVbを発現させたところ、糸状仮足内部あるいはその基部に蓄積することが明らかとなった。また、トランスフェリンレセプターとの二重染色の結果、変異ミオシンVbは積荷である小胞を結合したまま蓄積することが示された。蛍光性トランスフェリンを用いた一過的取り込み実験から、変異ミオシンVbを発現する細胞では、糸状仮足周辺でのトランスフェリンの排出が阻害されていることが明らかとなった。以上の結果より、ミオシンVbの折りたたみ構造は、細胞辺縁の最終的なエンドサイトーシス経路において、小胞を適切な場所で"手放す"ための制御に関与していることが示された。
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