癌抑制遺伝子APC(adenomatou polyposis coli)は、大腸癌の大多数の症例で変異が見出されており、大腸腺腫・癌発症の原因遺伝子であると考えられている。さらに、APCは脳神経系において最も高い発現がみられることから、神経細胞の機能に重要な役割を担っていることも示唆されている。さらに、我々がAPC結合蛋白質として見出したAsefとNeurodap 1も脳神経系でもっとも高い発現を示すことから神経細胞の機能に重要な役割を果たしている可能性があると考えられる。 現在までに我々はNeurodap 1がAPCのユビキチン化・分解に関わり、growth coneへのAPCの濃縮とPC12細胞の突起伸長に重要であることを見出している。これらの結果から、Neurodap 1によるgrowth coneへのAPCの集積制御が神経細胞の突起伸展に極めて重要であると考えている。そこで、growth coneにおけるAPC/Asefの動態観察を遂行するにあたり、神経細胞に比べて観察が容易な上皮由来培養細胞を用いてTime-lapse imagingによる予備的検討を行った。その結果、APCは微小管上をプラス端に向かって輸送されることを確認し、Asefは増殖因子の刺激依存的にラッフリング膜へ濃縮することを見出した。現在、同様の手法により神経細胞を用いて解析中である。また、Neurodap 1欠損マウスの小脳由来初代培養神経細胞を用いた実験ではNeurodap 1がAPCのユビキチン化・分解に与える明らかな影響は認められなかった。この結果は、生体内においてNeurodap 1が普遍的ではなく部位、又は時期特異的にAPCの制御に関わっていることを示唆していると考えている。今後は様々な初代培養神経細胞を用いて増殖因子刺激依存的な神経突起伸長、及びAPCのユビキチン化・分解に着目した解析を進める予定である。
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