真核生物の細胞周期における微小管のダイナミックなふるまいは、進化的に保存された微小管結合タンパク質ファミリーXMAP215/TOGとキネシンモーター様タンパク質ファミリーMCAK/kinesin-13が拮抗して機能することによってもたらされる。したがって、この二つのタンパク質ファミリーとその関連因子の機能を解析することは、細胞周期における微小管動態の分子メカニズムの全容解明に直結することが期待できる。今年度の本研究課題では、微小管をすばやく伸長させながら同時に高頻度のカタストロフをもたらすことができるというXMAP215/TOGに特異的な性質に特に注目して研究をおこなった。研究代表者はXMAP215と相互作用する因子群との関係について調べている過程で、XMAP215がin vitroにおいてfreeのチューブリン二量体と一対一の割合で直接結合できることを見出した。またXMAP215にGFP(緑色蛍光タンパク質)タグで標識した融合タンパク質を昆虫細胞の系で発現・精製し、ダイナミックな微小管と相互作用するXMAP215を直接可視化する一分子アッセイ系を開発した。このアッセイ系を用いた解析によって、XMAPP215が微小管上を拡散しながら移動し、微小管の末端にまで到達することが明らかにされた。またXMAP215は伸長している微小管においてプラス端に存在し続ける"tip tracking"の性質を示し、そこで微小管の伸長すなわちチューブリン二量体のプラス端への取り込みを亢進していることを明らかにした。さらに、XMAP215は縮小している微小管のプラス端においてもその末端に存在し続け、伸長時とは逆の反応すなわちプラス端におけるチューブリン二量体の解離をも促進できることを明らかにした。以上の結果から、XMAP215が微小管のプラス端において微小管伸長と縮小の両方の反応をprocessiveに触媒することができる「微小管ポリメラーゼ」としての分子機能を持つことが示された。この研究成果は、微小管のダイナミックなふるまいの根幹のメカニズムを分子レベルで解明した点できわめて重要であり米国の専門誌Ce11に発表された。
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