染色体分配のメ力ニズムは、分配過程に関わる多くの分子の分子生物学的な同定や、細胞生物学的な観察に基づき分子機能の予測を中心に研究されてきた。本研究では、生物物理学的手法を用いて、マクロな紡錘体や染色体における力の作用から、ミクロな分子内、分子間の力の機能を時間的・空間的に明らかにすることによって、染色体分配機構における"力"の本質を解明することを目的としている。 今年度は、アフリカツメガエル卵抽出液中で形成させた中期紡錘体に、ガラス微小針やピエゾ抵抗カンチレバーを利用したnNオーダーの顕微操作及び力測定を行うことで、紡錘体の力学的性質について明らかにすることを目指した。本研究は、アメリカ・Rockefeller大学Kapoor准教授と共同で遂行した。以下に、その結果を箇条書きにする。 (1)紡錘体の力学的性質 ピエゾ抵抗カンチレバー(東京大学下山勲教授より提供)またはガラス微小針を用い、紡錘体に定量的な力学的摂動を与える実験系を構築した。紡錘体の極間軸と直行する方向に、紡錘体を圧縮させることによって、紡錘体の力学的性質(硬さ、弾性変形、塑性変形、粘弾性的性質)についての知見を得た(論文投稿中)。 (2)顕微操作による紡錘体サイズの制御 先行研究による紡錘体を構成する分子の機能阻害実験によって、紡錘体の大きさや形は、主に染色体を取り巻く数種類の分子の濃度勾配、紡錘体構成分子の濃度など、化学シグナルによって制御されていると考えられている。しかしながら、本研究では、これら分子やシグナルの変化なく、力学的顕微操作のみによって、紡錘体のサイズを変化させることができることを発見した。現在、この紡錘体のサイズ変化のメ力ニズムについて精査している。
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