本研究では、神経細胞の形成や維持における脂肪酸結合タンパク質の生理的役割を解明することを目的として、嗅覚神経細胞層(嗅上皮)での脂肪酸結合タンパク質の発現様式およびその欠損による影響の解析を行った。初めに、嗅上皮cDNAを用いたRT-PCRによって特定のサブタイプの脂肪酸結合タンパク質が嗅覚神経細胞層に発現することを明らかにした。さらに、その脂肪酸結合タンパク質に対する特異的な抗体を作製し、嗅上皮における局在をタンパク質レベルで明らかにすることに成功した。嗅上皮には様々な神経形成段階の細胞が存在しているが、脂肪酸結合タンパク質は未成熟な神経細胞の軸策および樹状突起に主に局在していることが明らかとなった。次に、脂肪酸結合タンパク質の嗅神経細胞における機能を調べることを目的として、欠損マウスの嗅上皮の組織学的な解析を行った。その結果、脂肪酸結合タンパク質欠損マウスでは嗅覚組織自体に形態的な異常は見られないにも関わらず、神経細胞層の厚さが野生型のマウスと比較して薄くなっていることを発見した。 TUNEL染色において、欠損マウスでは神経細胞層にシグナルが多く観察されたことから、脂肪酸結合タンパク質は神経細胞の維持に重要な役割を担っている可能性が示唆される。今後、欠損マウス嗅上皮における細胞増殖能や分化能についても解析を行う予定である。また、免疫沈降法によって脂肪酸結合タンパク質が嗅神経細胞内で結合する因子の探索を行い、その作用機構の解析も試みる。
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