カスパーゼはアポトーシス制御に中心的役割を果たす分子である。カスパーゼシグナル経路のいくつかの遺伝子の機能欠損変異体では、外脳症などの脳神経系の形成異常が認められるが、この異常はカスパーゼシグナル欠損によるアポトーシスの減少だけでは説明がつかない。近年、カスパーゼはアポトーシス以外の自然免疫、細胞分化、形態形成といった広範な生命現象に関与することが明らかになりつつある。そこで本研究では、個体発生・発達過程でカスパーゼシグナルが果たす役割を理解するために、当研究室で作製されたカスパーゼ活性検出プローブを用いてカスパーゼ活性動態を明らかにすることを目指している。当研究室で開発されたカスパーゼ活性検出プローブSCAT3はこれまで培養細胞やショウジョウバエ個体では機能することが示されており、今回、マウス生体内においてもこのプローブが活用できるかを検討した。まず、子宮内電気穿孔法を用いて胎生10日目から14日目のマウス大脳皮質に外来遺伝子を強制発現させる系を用いて、SCAT3を大脳皮質錐体神経細胞に発現させた。その上で、胎生期および生後さまざまなステージにおいて脳神経系発達過程におけるカスパーゼ活性検出を組織学的手法およびライブイメージングを用いて試みている。現在までにマウス生体内組織においてもSCAT3を用いたカスパーゼ活性検出が可能であることが明らかになった。これらの結果をもとに、SCAT3を発現するトランスジェニックマウスを作製中であり、実験系の感度と信頼性をあげるべくさらなる改良を行っている。
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