胚の左側特異的に発現する転写因子Pitx2が支配する左右非対称な器官形成機構について、以下の研究成果を挙げた。 1. Fgf10は肺原基や心臓の流出路で左右非対称に発現し、その非対称性はPitx2によって制御されている。Fgf10の発現の左右非対称性を制御する領域を同定し、次に、制御領域内のPitx2結合配列を探索した。その結果、種間で保存されているPitx2結合配列を発見した。この結果は、Fgf10が、Pitx2によって直接的に制御されていることを示唆している。これまでに、Pitx2によって、直接的に左右非対称な発現を制御されている遺伝子は同定されておらず、Pitx2の下流シグナルの解明を手がかりとして、大きな発見であったといえる。 2. Pitx2は、肢芽においても、左側特異的に発現している。今年度、Pitx2が、胚発生中の前肢の特定の神経支配を受ける筋組織で発現していることを発見した。この神経は、前年度発見した、左右非対称な神経繊維と一致していた。これは、マウスにおける四肢の形態や機能的左右非対称性、利き腕の確立機構の解明につながる発見である。 3. 左右非対称な器官形成を支配しているPitx2が発現している胚の左側の細胞だけをFACSを使って集めて、RNAを抽出し、野生型とPitx2変異マウスで発現量に差のある遺伝子を、マイクロアレイによって探索した。その結果、心臓特異的に発現する複数の遺伝子に差が見られた。これらは、Pitx2の下流遺伝子の候補であり、左右非対称な器官形成機構を解明する大きな手がかりとなった。
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