これまでの研究代表者の研究により、ウニ幼生の左右非対称性の確立には、16細胞期に形成される小割球の子孫細胞が細胞間相互作用を介して影響しているが、種により小割球の作用する程度が異なることが、複数のウニの種を用いて明らかにされてきた。特に、サンショウウニは小割球の能力が中程度で、小割球が形成される16細胞期以前の2-4細胞期胚に対する割球除去は、成体原基の形成方向に大きな攪乱をもたらし、また、H^+/K^+-ATPアーゼの阻害実験は、他種と同様に両側に成体原基を形成する個体を増加させたことから、サンショウウニでは、他のウニとは異なり、左右非対称性確立に対する割球の影響は初期卵割期に作用し、これとは独立して、細胞内へのイオン流入も左右非対称性確立に影響をもたらしていると考えられた。そのため、当該年度は、他種のウニ幼生の左右非対称性確立に関与すると知られているNodalに注目し、その阻害剤であるSB431542を用いて、サンショウウニの様々な時期の胚に対して処理を行った。これまで報告のあった地中海産のウニに対する結果と同様に、初期胞胚期以降に一定期間継続処理を行うと、幼生の口は分化しなかった。間充織胞胚期からの処理では、幼生腕の伸長に影響がみられ、片側の腕のみが伸長していた。更に、原腸胚~プリズム幼生期から一定期間継続処理を行ったところ、両側に成体原基が形成する個体が増加した。このことから、サンショウウニにおいてもNodalが左右非対称に成体原基を形成する際に機能することが考えられた。次に、nodal遺伝子の単離を試みるため、第一段階としてサンショウウニをはじめ複数種のウニ胚からcDNAを作成した。更に、当該年度は、他のサンショウウニ科のウニであるコシダカウニ、ハリサンショウウニ及びキタサンショウウニを採集することができ、これらのウニの成体原基形成過程を詳細に観察したところ、基本的にサンショウウニと同様の成体原基形成を行うことが明らかとなった。また、これらのウニの16細胞期における小割球の成体原基形成方向への影響を調べるために、16細胞期の小割球除去実験を行い、その後の発生過程を追跡したが、4-6腕幼生期までは発生したものの、成体原基を形成する時期まで至らなかったことから、今後、実験を継続し、サンショウウニ科において小割球の左右非対称性の確立への影響する程度が全体的に低い特徴があるのか明らかにしていく必要がある。
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