ウニ幼生の左右非対称性の確立には、割球に影響を及ぼす小割球子孫細胞のシグナルが必要であり、その作用の程度は種間で異なる。また、卵割期における細胞内へのイオン流入も、左右非対称性の確立に影響する。サンショウウニでは、イオン流入は他種と同様に左右非対称性の確立に影響したが、小割球の形成前に左右非対称性が確立すると考えられ、本種では、他種とは異なる左右非対称性確立機構を持つと推測された。更に、海外のウニ類の幼生で右化因子として知られているNodalをサンショウウニで阻害した場合、他種と同様に両側に成体原基を形成する個体が増加した。つまり、本種でも、左右非対称に成体原基を形成する際に、Nodalが機能すると考えられた。これらから、当該年度は、幼生の右化にNodalが作用する時期を特定し、Nodal遺伝子の単離をはじめとする分子生物学的解析、更に、複数のウニ類を用いて、幼生の左右非対称性確立機構を比較することにより、ウニの左右非対称性確立機構の進化過程について考察することを試みた。同じ科に属するサンショウウニ、キタサンショウウニ及びコシダカウニに対するNodal阻害 (SB431542処理)は、いずれも原腸胚期から体腔嚢形成時までの間の5分程度で、幼生の左右性が攪乱された。また、小割球除去を行ったところ、キタサンショウウニでは、他の2種よりも成体原基形成方向が攪乱される割合が高く、小割球の左右非対称性確立に影響する程度は、同科内においても異なることが示唆された。 次に、既知のnodal遺伝子プライマーを設計し、前年度作成された各種ウニのcDNAから、PCRによりnodal遺伝子の単離を行った。また、in situハイブリダイゼーション用に各発生段階の胚や幼生の固定を、各種のウニで行った。また、既知のnodal遺伝子のモルフォリノアンチセンスオリゴを作成し、これをサンショウウニの未受精卵とプリズム幼生の体腔内に注入した。前者のほとんどは、原腸胚期で発生を停止したが、後者の約半分では、成体原基を構成する細胞塊が両側に形成された後、右側に成体原基が形成された。本研究成果から、ウニ幼生の左右非対称性確立機構には、発生初期の細胞間相互作用やイオン流入がそれぞれ独立して影響し、近縁種間においてもその効果が異なること、その後体腔嚢形成時までにNodalが共通して左右の違いを構成していくと考えられた。
|