本研究の目的は脊椎動物の進化研究に重要とされていながらも、100年間ほとんど報告の無いメクラウナギ類の受精卵を入手し、神経堤細胞の発生過程について記述することにより、脊椎動物におけるこの細胞の進化を探るというものである。よって、まず、研究の材料となる胚体を得るために、本研究の予備実験の段階ですでに得られていたヌタウナギ(Eptatretus burgeri)の卵約100粒に対して詳細な観察を行った。その結果、7粒の受精卵を発見することに成功し、うち3粒を組織学的観察、3粒をin situ hybridization用に固定、そして、のこりの1粒を遺伝子の単離のために保存した。はじめに、組織学的手法を用いて観察を行った結果、ヌタウナギにも他の脊椎動物と同様の脱上皮化する神経堤細胞が確認された。1942年のConelの報告によると、ヌタウナギの神経堤細胞は他の脊椎動物とは異なり、脱上皮化しないとされていたが、今回の結果は従来の説とは異なるものであった。さらに詳しく調べるために、In situ hybridization法を用いて神経堤細胞の検出を試みた結果、組織学的に観察された神経堤細胞に明瞭なSox9遺伝子(一般的な脊椎動物で神経堤細胞マーカー遺伝子として知られている)の発現が認められた。これらの結果は、脊椎動物の共通祖先においてすでに、神経堤細胞が存在していたことを示唆する結果となった。さらに、研究実施計画にもあるように、新たな胚体を得るため、島根県の漁業者の協力を得て、新たに数十個体のヌタウナギを入手し、19年度の夏から水槽内で飼育した。その結果、約100粒の卵が得られ、うち3粒が受精卵であった。これは本研究で実施されたヌタウナギ受精卵入手の手法に再現性があることを示す結果となった。
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