研究概要 |
前年度の研究において、表皮細胞層における側線感覚受容体(感丘)の挙動が、神経上皮細胞層における運動神経細胞の挙動ときわめて類似していることを見出した(Wada et al., 2008)。後脳における細胞の動態は、細胞が深い位置に存在するため、解析がほとんど進んでいない(Wada and Okamoto, 2009)。そこで、本年度は、比較的解析が容易な表皮細胞と受容体細胞の関係を中心に解析を行った。 まず、はじめに、感丘細胞でクラゲ蛍光タンパク質(GFP)を発現するゼブラフィッシュトランスジェニック系統を用い、鯉蓋の側線系に注目し解析を行った。鰓蓋感丘はまず1個の感丘からなっている。この感丘は、鰓蓋骨の成長に依存して、一部の細胞が遊走し、表皮細胞の隙間を移動し、新たな感丘を形成することがわかった(これを「出芽」と呼ぶ)。次に、鰓蓋骨に異常を示す、ednothelin1遺伝子機能阻害胚を観察した。これらの胚では、鰓蓋骨が腹側にシフトして形成される。そのとき、鰓蓋上の2つの感丘は、異所的に生じた鰓蓋骨に対応し、決まった位置に定位することを見出した。さらに、鰓蓋以外の領域でも、隣接する皮骨の形態に相関した感丘の分布を示した。以上の結果、(1)感丘は、表皮細胞層の中を出芽し、新たな感丘を作り出すこと。(2)また、その感丘パターンは、隣接する皮骨の形態形成に依存すること。を示している(Wada et al., 2010)。 本研究によって、感覚受容体細胞と表皮細胞の間には、相互作用が存在することが強く示唆された。今後、後脳神経上皮細胞との類似性から、細胞間相互作用を司る分子的実体の解明が期待される。
|