本年度までに透明度の異なる生息域を持つ種を用いて視覚の適応を介した種の分化と形成の分子機構が明らかにしてきた。本年度は生息水深の異なる近縁な2種を用いて視覚の適応と種分化について研究を行った。その結果、生息水深により異なる光環境に光受容体遺伝子が適応し、適応した光受容体に高感度で検知される色に婚姻色が進化し種分化を引き起こしてきたことを明らかにした。また昨年度までに水深や透明度などビクトリア湖の様々な環境に生息する種の光受容体遺伝子が、生息環境の光に適応するように分化していることを示してきた。そこで今年度はこれらの遺伝子の配列から光受容体を再構築し吸収波長の測定を行った。その結果、これらの遺伝子から再構築された光受容体が535-560nmの範囲で異なった最大吸収波長を持つことが明らかになり、それぞれの種が生息する環境の光に適応してきたことが明らかになった。また光受容体遺伝子の近傍領域の配列を用いて系統樹を構築し、ビクトリア湖の種の適応の歴史を推定した。その結果、最も古くに分岐した配列は透明度の低い岩場のアリルでこのアリルの配列間の遺伝的多様性は大きかった。深場に適応的なアリルや透明度の高い岩場に適応的なアリルはビクトリア湖の中でも派生的なアリルであり、最近に生じたためアリル間の遺伝的多様性は小さかった。これらのことからビクトリア湖の種は透明度の低い河川の環境から深場や透明度の高い岩場などの湖特異的環境に適応して来たことが推定された。
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